ドイツ日記 8月24日 晴れのち雨のち晴れ

peanut_butter2007-09-03

朝8時に目を覚ます。部屋の他のベッドの人たちはまだ寝ている。別にあるシャワー室に行ってシャワーを浴びてから昨日書いた絵葉書を手提げバッグに入れて部屋から抜け出した。ロビーに行って受付で郵便局は近くにあるって聞いてみると、階段下りて通りに出てから歩いていくとすぐ右手にあるよって教えてくれた。ロビーを見渡すと昨日の夜に話をしたアナスタシアが座っていてまたノートパソコンをいじっていた。僕は近づいて挨拶した。おはよう、おはよう、アナスタシアは昨日と同じ格好で、なんだかまだ眠そうな表情だ。僕はふと思いついて旅の途中で買った絵葉書のまだ使っていないやつを取り出してアナスタシアに言ってみた。「もしね、気にならないことならさ、この絵葉書の中から好きなやつを選んでみてよ。そして自分のロシアの住所と名前を書いてみてよ。僕は今から郵便局に行くところなんだけど、それをロシアへ届くように僕が送ってあげるからさ。」「それってとてもいいアイデアね。」アナスタシアはまだ眠そうな表情で絵葉書を選んでその絵葉書を見ながら少しだけ微笑んで一緒に渡したペンでそこに住所を書き出した。選んだ絵葉書は棺おけに入ったおじいさんがティーカップを持って横に立つおばあさんがポットを傾げてそこにお茶を注いでいるちょっといい感じのユーモアセンスがある写真のものだった。アナスタシアは2種類の文字で住所と名前を書いた。「これは英語で書いたもので、これはロシアの文字で書いたものなの。楽しみ。もちろんあなたのメッセージが書かれているんでしょ。」「うーん、僕の英語ってひどく貧困でしょ。だけどがんばって書いてみるよ。今日アムステルダムへ向かうんだよね。気をつけて。僕は明日の朝に日本へ帰るんだ。」「あなたも気をつけて。」「さようなら。」「さようなら。」僕らは握手をしてお別れをした。そして郵便局に向かった。そしたらまだ開いてなかった。9時に開くみたいであと5分くらいの時間があった。郵便局の入った建物の奥に鳥が飼われている大きな檻のある広場があってそこでアナスタシアへの絵葉書にメッセージを書いた。僕は恋していた。そんな気分を表す英語なんてそんなに知らないから僕はそこに単純でストレートな言葉、I LOVE YOUって書いた。なんていうのはウソだった。でも恋をした気分なのはあながちウソでもないかもしれないけれど、ベルリンで君に会ったのは嬉しいことだったぐらいのことを書いたんだと思う。きっともう会うこともないし、それだけのことだけどちょっとしたいい思い出だ。そして時を経て僕は思うのだろう。
君はもしかしたら本当はいなかったのかもしれないね 僕が作り上げた幻かもね 君がいた形跡はどこにも残ってないから
なんちゃって。それは好きでよく聴いている大好きな歌の歌詞だった。そんなたいしたことじゃないよ。それでも僕はアナスタシアのイメージを絵に残すのだった。これ以上、恋なんてしてしまわないように。
 

 
再び郵便局へと行って窓口で必要な枚数の切手を買った。そして絵葉書にペタペタと貼って外にあった黄色いポストに絵葉書を投函した。ドイツの郵便局のマークは日本の画材屋さん、月光荘のそのマークを連想させる。泊まったホステルは安宿だから朝食はついていない。だからお腹がすいていたんだけれど、インビスっていう軽食のスタンドでカリーヴルストというベルリンの名物とコーヒーを買って食べた。カレー粉をまぶしてあるホットドックのことなのだけれど、この旅行中ずっと同じようなものばかり食べているわけで、でも好き嫌いのない僕は何でもおいしく食べられるので旅行先で困ることは滅多にない。泊まったホステルの近くにはカイザー・ヴェルヘルム記念教会があったのでそれを見に行った。古い教会は空襲で焼け落ちたままの状態だったので屋外に聖堂がさらされていて金網が張られていた。新しく出来た教会は多角形の筒状の建物でその中は青いガラスブロックの格子がとても印象的で他にない不思議な雰囲気を持った美しい教会だった。
 
電車に乗ってポツダム広場の駅へと行き地上へと上がるとその交差点には背の高い近代的なビルが建ち並んでいた。大都市ベルリンを象徴する場所となっているみたいだ。それから壁で隔てられていた時代に外国人のみが通行できた国境の検問所チェックポイント・チャーリーとその近くに残るベルリンの壁を見てきた。ベルリンの壁が崩壊される映像は僕もかつて普通にニュースで見た記憶が残っている。
  

  
電車に乗ってゲスントブルネンという地下鉄の駅まで行った。その駅ではかつて第2次世界大戦やその後の冷戦時代に爆撃機による空襲から身を守るため地下での生活を強いられていた人々が過ごしたその地下のスペースをそのまま利用しそれらの歴史を物語る展示物などが置かれたアンダーグランドのツアーをやっている。かつて追いやられたあのヒトラーは地下スペースで愛人と自殺したらしい。BERLINER UNTERWELTEN E.V.というその事務所を訪ねて受付の女の人に、地下見学のツアーに参加したいんだけどって言うと、明日来たほうがいいわ、今日のツアーはドイツ語で明日は英語のツアーがあるからって言われたけれど、僕は明日の朝に日本に帰らなくちゃいけないから今日見たいんだって言うと、それならチケットを少し安くしてあげる、あなたはドイツ語理解できないでしょうからって言われて9ユーロのところを7ユーロにしてくれた。僕は英語もよく分からないからもし僕が明日来たとしても安くしてもらえるんだねって言ったら受付の女の人は少し笑って、そうするわって言った。正直言って2時間程に渡るドイツ語のツアーは何のことだか分からなかった。それでも今でも残る地下の真っ暗な世界、その場所の通り暗い歴史を物語る本物の場所を歩いてきたのは本当のことだ。
  
そしてまた電車に乗って行く。
  
電車から外を見るとさっきまで晴れていたと思ったら雨が降り出していた。電車を降りて歩いていると雨は小降りだったので傘は差さずいて、そのうち雨はやんだ。ハッケンシャー・マルクト駅周辺にあるホーフと呼ばれるモールに行ってみた。いろいろ見て廻ったけれど海外に来てというか普段から僕はそんなに気取ったファッションなんてしないから洋服や靴などは見るだけで何にも買わない。雑貨とかなかなかおもしろいものはあったけれど僕が買うのは絵葉書ばっかりだ。そしてホステルのあるツォー駅に戻った。近くにあったスーパーでチョコレートや即席カップポテトみたいなのを買って日本に持ち帰ってみることにした。あとちょっとしたパンや牛乳や水を買った。ホステルに戻って少し荷物を置いて、パンを食べ牛乳を飲んでみる。しまった、酸っぱい、これヨーグルトだよ。この間違い去年パリでもやったんだよね。さらに今回は買ってきた水をその後飲んでみると、しまった、シュワシュワするよ。これ炭酸入りの水だったんだ。味のない炭酸水って苦手だなあってことにもになったのである。言葉を分からないというのはこういうことなのです。そのあとこのホステルに来るときから目をつけていた近くにあったCD・レコードショップに行った。バルセロナでもパリでもそうだったけれど主流はやっぱりアメリカやイギリスのマーケットでそういう商品ばかりが置かれている。でも僕は必ずその場所で活動しているミュージシャンの作品を聴きたいのだ。旅先では必ずそういうCDを買ってくる。ほんのちょっとしかスペースのないドイツの音楽を扱うコーナーでジャケットから勘でいいんじゃないって思えるCDを3枚選んでレジに持っていき、店員の女の子にこれ試しに聴くことできるって聞くと、もちろんいいわってCDプレイヤーとヘッドホンのある場所にCDをセットしてくれた。3枚ともじっくりと聴いてみたんだけれど、自分でもセンスいいんじゃないってくらいポップでいい感じでその選んだCDを3枚とも購入した。
  
ベルリン天使の詩、そうヴィム・ヴェンダースの有名な映画で印象的なジーゲスゾイレの塔を見にバスに乗って行った。そしてその螺旋階段を登った。円形になった広場の中央に建つジーゲスゾイレを中心に十字に道路が続いていてその道路以外の場所は緑で覆われているのが印象的だ。そのひとつの延長にはブランデンブルク門へと続いている。ベルリンは歩いて廻るには大きすぎる街だとすぐ理解できる。最初にインフォメーションに行ったとき街を歩いて廻れるか聞いたときに無理だねって言われた理由がよく理解できる。さて、今日こそはちゃんとしたレストランでご飯を食べようと割りと早い時間にガイドブックに載っているそんなに気取ってなくて高くもないレストランに行ってみた。そこでビールをたのんでアイスバインという塩漬けした豚肉を香味野菜で煮込んだ料理を頼んだ。そうしたらすごいでっかい肉の塊にたくさんのザワークラフトと丸々のジャガイモが2個が大きなお皿にのってでてきてびっくりした。僕は食べ物を残すことが嫌いなんだけれど、これはさすがに無理だった。ザワークラフトは全部食べたけれどお肉とジャガイモは半分くらいしか食べれなかった。一人旅でドイツに行く人がいるとしたら、レストランではアイスバインに気をつけろと言っておきたい。でも結構おいしいって思った。
  

  
辺りはすっかり暗くなっていた。レストランからホステルまでは1駅だったのでお腹いっぱいのお腹を少しでも軽く出来たらなあって思って街を歩いて帰ることにした。歩いて帰った周辺の街並みは日本でいったら銀座とかそんな感じの街並みだった。いろいろなお店の窓のディスプレイを見ながら歩いた。そして駅にたどり着いたけれど、まだ少し早いと思ったのと名残惜しく感じてバスにまた乗ってしまった。昼間に行ったジーゲスゾイレの塔にまたたどり着いた。人がひとりもいないその周りを歩いた。高い建物はその塔だけで空は広く広がっている。雨も降ったけれど旅行中で一番天気がよい日で最後の日の夜空には星と月を眺めることができたのはとてもよかった。そして塔の天辺にいる天使の像は灯りに照らされて印象的に形どられていた。
  
10時30分を過ぎた頃にホステルの部屋に戻った。部屋は誰もいなかったけれど、ついさっきまでたくさんの人が騒いでいたような感じのいくつもの空き缶や食べ物の包装の散らかり具合だった。今日この部屋に泊まるのは騒がしい若者なんだろう。僕は夜の散歩をしてきて良かったと思った。意味もなくたくさんの人が集まって騒ぐことが僕はあんまり得意じゃない。そういう場面をうまくかわしていたことに安心した。次の朝は日本に帰らなくちゃならない。誰もいなくなった部屋に安心して僕は自分のベッドに潜り込んだ。おやすみ。