わし

十一月
朝からずっと強い雨が降り続いていた。洗濯物はしょうがないから部屋干しだった。出掛けたいところがあったけど、窓を開けて外の雨を眺めながらくじけて家の中にいた。でも夕方にはだいぶ雨が弱まってきて予約していた早川義夫さんとタテタカコさんのライブを見に行った。とても久しぶりに早川さんとタテさんのライブを見るけど前にライブを見たのも二人共演したときだった。早川さんの歌は純愛を聴けたらいいなと思っていた。純愛の入ったアルバムは持っていないから音源では聴けていないのだけれどしばらく印象に残っている歌だった。去年に安藤さんがライブでカバーしたからだろうなと、安藤さんはそれまで聴いたことがなかったけど、その時共演のクラリネットの井上さんのすすめでCDを借りて聴いてカバーしたらしくて、おそろしい音楽、でも気に入って聴いているとか、それを自分の中で消化して歌ってて、だからそれから印象に残ってる。早川さんは最初にサルビアの花を歌ってその次に流れ出したピアノでハッとした、純愛を歌った。たくさん歌って聴きたかった歌を他にも聴けて歌の中でじっとしていた。おそろしい音楽のような気もするし、わかりやすい言葉でやさしく寄り添う音楽だとも思う。タテさんはフランス帰りでフランスギャルのカバーを歌ったりしていたけど、いつもユーモアのあふれた演出や話をしてくれて気持ちが柔らかくなる。でもピアノで歌に向き合うとなんともいえないピンと背筋を伸ばしてしまうようなまっすぐな感じに自然とさせられる。早川さんの歌う顔とタテさんの歌う顔は対象的だった。最後のアンコールでは連弾だったからそのふたつの顔が並んでいた。目をつむっているような柔らかな表情で歌う早川さんと目を見開いて眉間にシワが出来るくらい大きく口を開いて歌うタテさん、でも共通するのはどちらの歌も力強い歌ってことだった。そしてふたりとも柔らかく話をする。気分のよくなる、わしのうた、ぼくのうたってタイトルのライブでした。わしというのはタテさんが暮らしている故郷の言葉で私ってこと、その近くで生まれた僕は、死んだおばあちゃんが自分のことを、わしゃーって言っていたことを思い出す。おじいちゃんが死んで葬式が終わってテレビで時代劇見ながらこんなことつぶやいたのを覚えている。「わしゃー、じいさん死んじまったより銭形平次が死んじまったのが悲しいわ。」おもしろかった。
タテさんの十一月という歌が素晴らしかった。